『東南アジア考古学』第41号(2022年1月刊行)掲載原稿概要一覧

 

 種別  論文
 タイトル  13世紀末~16世紀アンコール・トムの上座部仏教寺院建造時期に関する検討
 著者  下田 麻里子(早稲田大学)
 掲載ページ  5-23
 要旨   アンコール王朝末期の君主らは、それまでのヒンドゥー教、大乗仏教にかわり新たに上座部仏教を導入することで、来たる「交易の時代」にむけた国家構造の変革を試みようとしたと考えられる。本稿の狙いは、アンコール王朝の王都アンコール・トム内で13世紀末頃から16世紀にかけて建造された上座部仏教 寺院の建造時期を検討することで、同都市の上座部仏教都市化における都市構想とその過程を明らかにすることにある。分析手法として、アンコール・トム内の上座部仏教寺院を対象とした類型学的分類を行い、各分類に属する遺構の基壇繰り型やセーマストーンから、分類ごとの建造年代を検討した。さらに、13世紀末から16世紀のアンコール・トムの3つの時期区分について整理した上で、同都市内の上座部仏教寺院の概略的な編年がこれらの時期区分とある程度の対応関係をみいだせることから、王都アンコール・トムが段階的に上座部仏教化していく様相について提示した。
 キーワード  Cambodia, Angkor Thom, Theravada Buddhist Monasteries, Typological Classification, Chronology
 掲載言語  英語

 種別  論文
 タイトル  遺跡の「真正さ」を探る:アンコール遺跡群バンテアイ・クデイの近現代史
 著者  丸井 雅子(上智大学)
 掲載ページ  25-40
 要旨   バンテアイ・クデイはアンコール期(802-1431)の12世紀末頃建立された大乗仏教寺院遺跡であると解釈されている。アンコール期の寺院建築群は、近代以降は伝統的本質へ回帰する文化表象として扱われ、1992年の世界遺産登録がそれを強化する。特に現代においては遺跡と地域住民を「伝統」や「文化景観」といった概念で一括りにするが、本稿はそうした本質主義的見方への批判を出発点として、バンテアイ・クデイと地域住民に焦点を当て考古資料と語りに基づいて両者の歴史的関係を動態的に捉え直す。そこから見えてくるのは遺跡をめぐる近現代史であり、人々の記憶が生きている場としての遺跡のもう一つの「真正さ」である。
 キーワード  歴史地域学、遺跡の「真正さ」、考古学、オーラル・ヒストリー、アンコール
 掲載言語  日本語

 種別  論文
 タイトル  稲作農耕圏の民族誌における火処タイプの選択理由
 著者  小林 正史(北陸学院大学)
 掲載ページ  41-56
 要旨   稲作文化圏における伝統的火処タイプの選択理由を解明するために、東南・南アジアの火処民族調査と東アジアにおける文献調査を組み合わせて火処の地域間比較を行った。その結果、火処タイプ(煙道付カマド、煙道なしカマド、三石・五徳炉、自在鉤炉、七輪)の選択理由として、以下のように、暖房、主食調理法、家屋構造、燃料の種類などが重要であることが示された。第一に、暖房機能が必要な地域では、鍋を吊る(自在鉤)炉や煙道付カマド(特にオンドル・炕)が用いられる。第二に、薪燃料が希少な地域(南アジア)では、熱が逃げにくい小型カマドが用いられる。第三に、高床建物ではカマドを置けないため、三石炉が選択される。最後に、主食調理法については、側面加熱蒸らしを伴う湯取り法炊飯は蒸らし時に側面加熱ができる三石炉、長時間強火加熱が必要なウルチ米蒸し(中国南半、ジャワ)や短時間強火加熱が必要な炊き干し法(中世以降の日本・韓半島)はカマド、という結びつきが観察された。
 キーワード  火処、イロリ、カマド、主食調理方法、暖房の必要性
 掲載言語  日本語

 種別  論文
 タイトル  東ミクロネシアにおける人類の移住年代と貝利用―ポーンペイ島での最近の発掘成果より
 著者  小野 林太郎(国立民族学博物館)、山野 ケン陽次郎(熊本大学)、片岡 修(上智大学)、Jason Barnabas(ポーンペイ州歴史保存局)、長岡 拓也(NPO法人パシフィカ・ルネサンス)、片桐 千亜紀(沖縄県立埋蔵文化財センター)、山極 海嗣(琉球大学)
 掲載ページ  57-72
 要旨   ポーンペイ島を含む東ミクロネシアへの人類移住は、約2000年の間に西ミクロネシア、メラネシア、あるいはポリネシア方面など様々な方向から行われてきた痕跡がみられ、複雑な様相を示している。しかし、初期居住は、言語学的にはメラネシア方面を中心に大まかに南から北の方向に向かう移住が主となったと考えられ、考古学的にもその可能性を示す痕跡が発見されつつある。本稿では、こうした可能性を検証するために2019年から開始したポーンペイ島での発掘調査とその成果について、その初期居住年代とミクロネシア内での地域間比較を行う上で考古学的に注目されてきた貝製品をふくむ貝類の利用に関する新たな資料を軸に、東ミクロネシアへの初期の人類移住とその物質文化や貝利用の特徴について総合的に論じる。
 キーワード  ミクロネシア、初期移住、ポーンペイ島、貝利用、CST土器
 掲載言語  日本語

 種別  研究ノート
 タイトル  古代中世クメール史の動態検証における古気候復元データの利用にかかる諸問題
 著者  下田 一太(筑波大学)
 掲載ページ  75-92
 要旨   古代中世クメール史の舞台であったインドシナ半島の古気候復元や、アンコール遺跡群の古環境復元に関する研究が近年進展している。こうした古気候や古環境復元の成果は、歴史学に新たな観点をもたらしているが、これまでのところアンコール時代後期の王朝衰退に関係した文脈での考察に傾斜しており、アンコール王朝の成立時期や、プレ・アンコール期に遡るクメールの通史的な動態解釈に援用した研究事例は限られている。本稿では、プレ・アンコール期以降の刻文、寺院、水利施設造営の時代的な推移をアンコール王朝の支配機構の集権力の指標とし、古気候復元データとの相関を検証することで、そこに一定の有意な関係が認められることを示すとともに、アンコール王朝の消長の動態については複雑な諸条件の因果を考慮する必要があり、古気候復元データの利用にあたっては多様な課題があることを論じるものである。
 キーワード  クメール、アンコール文明、古気候、古環境
 掲載言語  日本語

 種別  研究ノート
 タイトル  サピエンスによる更新世期の島嶼移住と渡海に関する一考察: ウォーレシア・琉球列島における事例から
 著者  小田 静夫、小野 林太郎(国立民族学博物館)
 掲載ページ  93-109
 要旨   アフリカを起源とする現生人類(ホモ・サピエンス)は、後期更新世にはアジア圏の熱帯・亜熱帯島嶼部へ拡散した。このうちサピエンスによる最古の渡海事例として知られるのが、東南アジアに広がるウォーレシア海域におけるサピエンスの渡海や島嶼移住である。サピエンスはさらに5万年前頃までに約80キロ以上の渡海により、オセアニア圏となるサフル大陸(現在のニューギニアやオーストラリア)への移住にも成功した。一方、東アジアでは4万年前頃までには日本列島で旧石器時代遺跡が出現し、3万年前までにはその南に広がる琉球列島の島々にも痕跡が出現する。特に近年、石垣島で2万8000年前頃に遡る複数の更新世人骨が発見されたことは、南方方面からの移住があった可能性も示唆している。本稿ではこれら近年における新たな発見を踏まえつつ、更新世期のサピエンスによる渡海方法や島嶼移住の文化的背景について、ウォーレシアと琉球列島における事例を対象に、現時点での総合的な比較検討を試みる。
 キーワード  サピエンス、更新世、渡海、島嶼移住、ウォーレシア、琉球列島
 掲載言語  日本語

 種別  研究ノート
 タイトル  東南アジアの宗教考古学研究序論―世界宗教を対象として―
 著者  坂井 隆(国立台湾大学)
 掲載ページ  111-128
 要旨   現在東南アジアのほとんどの地域ではさまざまな宗教が熱心に信じられ、人々の最も重要な精神的拠り所となっている。その状態は先史時代以来続いており、特に歴史時代の大規模遺跡の大部分は宗教関連のものである。そのため日本考古学とは異なって、東南アジア考古学では宗教考古学とは、決して特定の研究分野ではなく、文化史を物質的証拠で探る試みと言える。それをどのように日本の研究者は考えたら良いのかという点について、主に世界宗教に関する事例の礼拝建物・遺物と埋葬遺構から原則的な事柄を提示してみたい。
 キーワード  宗教考古学、世界宗教、礼拝建物遺構、埋葬遺構、礼拝遺物
 掲載言語  日本語

 種別  書評
 タイトル  『ものがたる近世琉球-喫煙・園芸・豚飼育の考古学』石井龍太 著、2020年
 著者  宮城 弘樹(沖縄国際大学)
 掲載ページ  131-132
 要旨  -
 キーワード  -
 掲載言語  日本語

 種別  マングローブ通信
 タイトル  追悼 ベトナム考古学の開拓者-ハー・ヴァン・タン教授
 著者  菊池 誠一(昭和女子大学)
 掲載ページ  133-136
 要旨  -
 キーワード  -
 掲載言語  日本語

 種別  マングローブ通信
 タイトル  台湾研究滞在記(2020年9月~2021年7月)
 著者  俵 寛司(国立台湾大学)
 掲載ページ  137-140
 要旨  -
 キーワード  -
 掲載言語  日本語